デス・オーバチュア
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「たく、つき合いきれるか」 黒ズボンに赤シャツの男は、歩きながら黒帽子を被り直す。 「……ん、やはり、コートがないと帽子とグラサンが様にならぬか……」 男……ギルボーニ・ランは、帽子を脱ぎ、黒眼鏡(サングラス)もかけるのをやめた。 「……ガイの奴にも挨拶していくつもりだったが……やめておくか……」 魔王と神聖騎士との二連戦で、当初の予定……予想以上の損害を受けている。 魔王との戦闘で極東刀は殆ど使い切り、神聖騎士との戦闘でついには底が尽きた。 神滅の魔銃ガヌロン13(サーティン)も、神滅弾は残り弾倉一つ……つまり、十三発しか残っていない。 おまけに、ガルディアの黒の正装だけでなく、お気に入りの黒いコートまでなくしてしまった。 「くそう、イリーナの奴、全て必要経費で落とさせてもらうからな……」 リューディアのように無から有を生み出すような能力は持っていない以上、ギルボーニ・ランの装備は金がかかるのである。 神滅弾のような特種な弾丸程ではないが、極東刀だって、ここ中央大陸やガルディアのある北方大陸で手に入れようとすれば、かなりの値段になるのだ。 金銭的問題は、ギルボーニ・ランがガルディア十三騎に留まっている理由のかなりの割合をしめている。 無論、ガルディア皇家が彼にとって倒すべき『神(悪)』と判断されれば、金銭的問題など無視して、即斬り捨てるつもりだ。 金は欲しいし、必要だが、金で飼われるつもりはない。 歩き続けていると、何の被害も受けていない街並みに辿り着いた。 リューディアが迷宮に作り替えたり、クヴェーラが吹き飛ばして荒野にしたといっても、それはホワイトの街全てではない。 今回の騒ぎや、至高天の飛来による夜化現象にまったく気づいていないということはないだろうが、それも今は全て治まっていることもあり、今、ギルボーニ・ランが歩いてる街並みは『普通』だった。 普通に人々が行き交い、店なども営業されている。 「たくましいことで……それとも、呑気というべきか……いや、これも無関心さというものか?」 どうでも良さそうに呟きながら歩いていたギルボーニ・ランの足が、一つの店の前で止まった。 「……そうだな、飯でも食っていくか」 ギルボーニ・ランは定食屋に足を踏み入れる。 「ああっ!? ラーメンもマーボーもないのかよ!」 店員のいらっしゃいませの声は、一人の客のガラの悪い声で掻き消されていた。 「仕方ねえ、じゃあ、チャーハン!……もないのかよ!?」 やかましい声の発生源はストロベリーブロンドの髪の幼い少女である。 「ああ、もう! どきやがれ! 私が作るから厨房貸しやがれっ!」 少女は勝手放題なことを言いながら、自前のでかい包丁を振り回していた。 「なんて傍迷惑な客だ……ん?」 ギルボーニ・ランは、カウンターに座っている見覚えのある客に気づくと、その客の横の椅子に腰を下ろす。 「よう、連敗続きの負け犬」 ギルボーニ・ランは挨拶代わりにそう声をかけた。 「……神殺しか、何をしに来た……?」 銀髪の青年……ガイ・リフレインは、ビーフステーキをナイフとフォークで切りながら、ギルボーニ・ランの方には視線も向けずに応じる。 「飯屋に飯を食う以外の目的で来る奴がいるか?」 「…………」 ガイは特にツッコミも入れてやらず、切り分けたステーキを口に運んだ。 「ガイ、ツッコミ入れてあげないと可哀想だよ」 ギルボーニ・ランとは逆隣の椅子に座っている青銀色の髪の幼い少女が、お子様ランチを食べながら口を挟む。 「静寂の夜か……わざわざ人型をとって食事をする必要もあるまいに……それもお子様ランチか……」 ギルボーニ・ランは呆れたような眼差しをアルテミスに向けた。 「何、歳を考えろとでも? ちゃんと考えているじゃない、『見た目』の歳をだけどね。う〜ん、プリン美味しい〜♪」 アルテミスは心底幸せそうにプリンを味わっている。 「……で、俺達に何か用があるのか、神殺し?」 ガイはステーキを食べる手を休めずに、ギルボーニ・ランに尋ねた。 「まあ、待て……その前に注文を……おい、この店はいつになったらオーダーを聞きにくるんだ!」 「お待たせだぜ!」 ギルボーニ・ランがクレームを言うのと同時に、オーダーを取りに来る……店員ではなく、さっき騒いでいた客が……。 「お前、この店の店員じゃないだろう……」 「この店は私が占拠したぜ! さあ、何が喰いたい! 何でも作ってやるぜ!」 ギルボーニ・ランはしばらく、このストロベリーブロンドの髪の少女を値踏みした後、割り切って注文することにした。 「お勧めはマーボー豆腐だぜ! チャーシュー麺も過激に上手いぜ」 「……東方系の料理だな……それが食えないので、怒って店を占拠したのか……」 ギルボーニ・ランは呆れたように溜息を吐く。 「おっ、ちゃんと知っているのか? 嬉しいぜ」 「東方系か……では、蕎麦(ソバ)は作れるか?」 「チッチッチッ、舐めちゃいけないぜ、中華が一番の得意料理だが、極東の島の料理だって完璧に作ってみせるぜ!」 「そうか、では、ざる蕎麦をもらおうか」 「おう、任せな。まずは、ざるがないから、ざるを作るぜ!」 ストロベリーブロンドの少女は、包丁をノコギリ代わりに、工作を始めた。 ギルボーニ・ランはあえてツッコミは入れずに、ガイの方に向き直る。 「さて、用件だったな……実は別にない」 「………そうか」 ガイはちゃんとしたテーブルマナーにそったやり方でライスを口にした。 「とりあえず『挨拶』というか……お前の腕が落ちていないか確かめたかったんだが……こっちもいろいろあってな……」 「ねえねえ、パフェ作れる? パフェ?」 お子様ランチを食べ終えたアルテミスが、ざるを作っている少女に声をかける。 「ああ、作れるぜ。ストロベリーパフェでいいか?」 「うん♪」 「ちょっと待ってな。よし、ざるは完成したぜ」 少女は今度は、蕎麦粉を水でこね始めた。 「……まあ、とにかくだ。サウザンドごときにまた負けたそうじゃないか? 俺としてはお前が弱くなったんじゃないかと心配でな……」 「お前はサウザンドの強さが解っていない。俺はサウザンドには勝てぬとも、お前には絶対に負けないさ……」 「ほう……言ってくれるな……やっぱり、殺り合ってみるか?」 ギルボーニ・ランの赤い瞳に殺気が宿る。 「……お前の方の都合が悪いんじゃないのか……?」 ガイは、ギルボーニ・ランの殺気に気づいていながら、涼しい顔で食事を続けていた。 「別に消耗品の刀が切れただけの話だ。相手の実力を計るのが目的のお遊びでラグナスを抜くわけにはいかないだろう? 確実に殺してしまうからな」 ギルボーニ・ランの口元に酷薄な笑みが浮かぶ。 「なるほどな……」 ガイにはギルボーニ・ランの言っている意味が解った。 誰と戦ってきたのか知らないが、この男は自分の本来の愛剣を抜かずに、無銘の刀だけで戦ってきたのだろう。 ガイで言えば、サイレントナイト(アルテミス)を使わずに戦うようなものだ。 それは、例え全力を出したとしても、お遊び、手加減以外の何物でもない。 使い手の攻撃力+愛剣の攻撃力=愛剣を使った時の攻撃力ではない、互いを認め合う使い手と剣は、互いの潜在能力を限界以上に引き出し合うのだ。 その力、その可能性は、ある意味無限大ともいえる程である。 「わたしは嫌だよ、ガイ。ラグナスとやりあうのは痛いし疲れるもの……それに……」 「それに?」 「まだパフェを食べてないからここから動きたくない!」 アルテミスは珍しく真剣な表情できっぱりとそう言い切った。 「……だそうだ。どうする? なんなら俺はその辺で適当な剣を買って相手をしてやってもいいが?」 「……やめておこう。それでは俺が有利すぎてつまらん」 「そうか……」 「待たせたな、ざる蕎麦完成だぜ〜っ!」 会話が終わった丁度良いタイミングで、ざる蕎麦がギルボーニ・ランの前に差し出される。 「ほう……まさか、中央大陸でここまで見事な蕎麦が食えるとは思わなかった……」 ギルボーニ・ランは、一目でそのざる蕎麦の見事さを見抜いていた。 「お? 解るのか? 麺とつゆだけのシンプルな料理だからこそ、腕が大事なんだぜっ!」 少女はとても嬉しげで、同時に無駄に偉そうである。 「では、いただきます……」 ギルボーニ・ランは両手を合わせた後、『割り箸』を心地よい音をたてて綺麗に真っ二つに割ると、蕎麦をつゆに少しだけつけて、勢いよくすすった。 「……これは!」 ギルボーニ・ランは驚愕の表情で言葉を失う。 その反応に、偉そうに腕を組んでふんぞり返っていた少女は、楽しげにニヤリと笑った。 「……蕎麦もつゆも見事だが……何よりも使っている水が違う! これは極東の名水中の名水……」 「それを見抜くお前も流石だぜ。貴重な水を使ってやった甲斐があったぜ」 「…………」 二人のやりとりは無視して、ガイは食事を終える。 「ガイ、ツッコミいれるか、ノリを合わせてあげたら……?」 「……そうだな。神殺し、お前、東方の生まれだったのか?」 東方の料理に詳しく、箸とかいう東方の道具を器用に使って蕎麦を食べていることから、ガイが抱いた疑問だった。 「いや、突っ込むところはそこじゃないと思うよ、ガイ……」 「ふん、剣と料理は東方に限る、それだけだ」 ギルボーニ・ランは蕎麦を上手そうにすすると、そう答える。 ガイの質問そのものには、肯定も否定もしていなかった。 「……ふっ、上手くかわされてしまったか……」 ギルボーニ・ランの見事な返しに、ガイは自嘲的な微笑を浮かべる。 「ガイ……駄目だ、ガイもある意味ボケだ……」 「ヘイッ! ストロベリーパフェお待ちだぜ!」 「えっ? つきゃああああっ〜!」 アルテミスは、嬉しげな悲鳴を上げながら、瞳を輝かせた。 とても大きく、何よりも美味しそうなイチゴの乗ったパフェ。 「……ォォォおいしいいいぃぃっ〜!!」 一口食べるなり、アルテミスがオーバーな喜びの叫びを上げた。 「はっはははははっ! 当然だぜ! 魔界一の美少女天才料理人、赤月魔夜様の料理が上手くないわけないぜっ!」 少女……魔夜の高笑いが響く。 物凄く傲慢な感じがするが、彼女はそれだけの腕を持っていた。 「んんん〜♪」 アルテミスは、物凄く幸せそうにパフェをパクパクと食べている。 「ははははっ! そうだ、そっちの銀髪の兄ちゃんもなんか注文したらどうだ? こんな店の料理と、私の料理の次元の違いを見せてやるぜっ!」 「……ふむ……そうだな……では、塩ラーメンをもらおうか?」 「応っ! 任せなっ! ラーメンはマーボーの次に得意な料理だぜっ!」 魔夜は豪快に笑いながら、調理に取りかかった。 「……つあぁっ!」 夜叉王クヴェーラは唐突にその場に出現した。 「ちっ、どこだここは……?」 意識が、体の感覚が、まだしっかりと定まらない。 シン・シンフォニーに異次元に飛ばされてから一瞬しか経っていないようにも、何ヶ月も経過しているようにも思えた。 正常に戻っていく耳に聞こえてくるのは、美しい竪琴の音。 そして、視界に映るのは見覚えのある城内だった。 「……ちっ、スタートに戻るってやつか……」 「…………」 「クヴェ〜ラ〜、マヌケ〜?」 「ふん、愚か者が」 「いやいや、お疲れお疲れ、お疲れ様だったね、クヴェーラ」 クヴェーラが出現するより前からこの場に居たのは四人。 一人目は竪琴を奏でている少年。 二人目は少年の傍に座り込んでいる赤い女。 三人目は、黒いフードとローブ……つまり、ガルディア十三騎の黒の正装に身を包んだ人物。 最後の一人は、全身で自分は王族か貴族だと主張せんばかりに派手な衣装を纏った青年だった。 「……珍しい組合せだな」 「いやいや、組合せも何も、今、城……というか、ガルディアに残っている全員が集まっているだけの話だよ」 派手な青年が、これまた派手というか、妙にわざとらしく無駄な仕草をとりながら、説明する。 「……どうでもいいが……てめえは、いちいちポーズを極めないと話せねえのかよ、ハーミット……」 「いやいや、気にしないでくれたまえ、別に深い意味はないから」 そう答える間にも、青年のポーズは常に落ち着き無く変化し続けていた。 隠者(ハーミット)という名とは対極に、無意味に派手な男である。 クヴェーラは周囲を見回し、この場に居る人物を改めて確認し直した。 「……くっ、選択の余地がねぇ……」 一言で言うなら『うざい』ハーミットとあまり会話などしたくないが、他の人物とはそもそも会話が成り立ちそうにない。 少年は自分の音楽に陶酔するかのように、目を閉じ竪琴を弾き続けているし、赤い女の妙な喋り方はハーミットとは別の意味でうざくて理解しにくく、フードの人物はクヴェーラごときと会話する口は持っていないといった態度だ。 となると、事情を聞ける相手は、お喋りなハーミットだけしか残らない。 「……なんで、アニスかエルスリード辺りが残っていねえんだ……」 クヴェーラはガルディア十三騎の中で比較的まともな人物の名を口にした。 そう、ここに居るのは全員ガルディア十三騎である。 竪琴を弾いているのが第五騎士眠神ヒュノプス 、隣の赤い女は第六騎士暁の女神アウローラ、黒の正装をしているのが第八騎士堕神クライシス、無駄に全てが派手なのが第十二騎士青薔薇のハーミットだ。 「……全員集まっているだ? 全員が集まっていることに驚くべきか、全員でオレを含めて五人しかいないことに驚くべきか……なんだかな……」 「本当は全員違う〜、ザヴェ〜ラ〜、居留守〜♪」 アウローラが独特の口調で口を挟む。 彼女は片言というか、発音がどこか変なのだ。 「居留守? 居留守ってことは、来なきゃいけないのに来てないってことか?」 「イリ〜ナ呼んだ〜、全員集合〜、でもみんな居ない〜♪」 「ああ? 招集がかかったてのか、十三騎全員にっ!?」 「イェェス〜♪」 「ははははっ、そういうことだよ。そうでもなければ、この私がこんなつまらない者共と一緒に居るわけがあるまい?」 「それはこっちのセリフだ、人間」 ハーミットのセリフに、今まで無言だったクライシスが吐き捨てるように声を出す。 「クライシス〜、種族拘る良くない〜、みんな仲間〜♪」 「ふん、貴様には神族の誇りがないのか、アウローラ?」 クライシスはアウローラの仲裁を鼻で笑った。 「埃〜? アウローラの体〜、綺麗綺麗〜♪」 「ふん、貴様とまともに話そうとしたのが愚かだったわ」 「クライシス〜、愚か〜? お馬鹿さん〜?」 「ええい、貴様は黙っていろ! 内容以上にその喋り方がカンに触る!」 「ああ、それについてだけは同感だぜ」 「いやいや、君達、それはあんまりだよ、例え事実でも、彼女に失礼ではないか」 「アウローラ黙る〜? みんな嬉しい〜? イェス、アウローラ黙る〜♪」 アウローラは怒るわけでも、傷つくわけでもなく、楽しげに了解する。 「口調だけでなく頭までおめでたいのか、貴様は……?」 「いやいや、彼女は無垢なのだよ、赤子並の知能しかないかのようにね」 「ああ、闘神と破壊魔が恋しくなってきたぜ……」 別にあの二人と仲が良ったわけではない、彼らと連むことが多かったのは、同じ鬼神だということ以上に、他の十三騎よりはマシな奴らだったからだ。 今、この場に居る者達とは、話が合わないどころか、言葉自体通じていないような気がしてくる。 彼らの会話を聞いているだけで、一緒にいるだけで頭痛がしてきそうだった。 「…………」 突然、ヒュノプスの演奏が止む。 「何、たった五人しか居ないの?」 演奏の終了と同時に、その場に姿を見せたのは、彼らの共通の主、ガルディア女皇、イリーナリクス・フォン・オルサ・マグヌス・ガルディアだった。 その傍らには、赤い外套の錬金術師が当然のように控えている。 「最初から空位に等しい壱と拾参はともかく、アニスやエルスリードまで外出中とはね……」 イリーナの出現と共に、この場の十三騎全員が跪いていた。 「クヴェーラ、闘神と破壊魔はどうしたの?」 「はっ、闘神は蒼穹の魔女と共に私用で中央大陸のホワイトに、破壊魔はかなり前から行方知れずです」 クヴェーラは普段とは別人のような丁寧な言葉遣いで答える。 「そう……もしかして、あなたも一緒に中央大陸に赴いていたの? それにしては、あなただけ戻っているのもおかしい気がするけど……」 「はっ……それはその……」 不覚を取り異次元に飛ばされて戻ってきたなどと、情けなくて口に出来ることではなかった。 「まあいいわ。ザヴェーラは大方サボりでしょうし……一応全員揃っているわね」 「イリ〜ナ〜、ギルは〜? なぜ居ない〜?」 アウローラが跪いてこそいるものの、主に対するものとは到底思えない、普段の独特の口調で尋ねる。 「ああ、ギルボーニはいいのよ、アウローラ。わたしの密命で中央大陸に飛ばしたから」 「そうなの〜? ギル、命令聞いた〜? 不思議〜♪」 イリーナはアウローラの口調と態度のことは咎めなかった。 「さて、あなた達を招集したのは他でもないわ。聖皇剣の目覚めの刻は近い……この意味は解るわね?」 全員が沈黙によって肯定する。 「では、ガルディア女皇として命じる! ガルディア十三騎よ! 今より世界中に散り、汝ら十三騎にも劣らぬ強者を一人でも多く捜し出せ! 贄……いや、ゲストとして丁重に『祭り』に招待せよ! 猶予は今より三ヶ月! では、散れっ!」 『はっ!』 返事と同時に全員の姿が掻き消え、その場には女皇と赤い外套の錬金術師だけが残された。 「……贄は十三騎だけで充分だろうに……あれでは、空位を埋める以上の強者が集まることになるぞ」 十三騎全員の気配が城から完全に消え去ったのを確認すると、錬金術師が口を開く。 「それこそ望むところよ。十三騎の枠は限られているけど、祭りの参加枠には実は人数制限なんて無い……多ければ多い程良いのよ……そうでしょう、デミウル?」 「君の言うとおりだ。生け贄は多ければ多いほど良い。だが、それでもし、君を凌駕する強者を招くことになったらどうする? 全ては水泡に帰すぞ」 「あら、わたしを誰だと思っているの? わたしはガルディア女皇、十三騎の支配者、唯一人で十三騎全員を凌駕する力を持つ者よ! そうでしょう、デミウル?」 「ああ、その通りだ、私の女皇(イリーナ)」 「ふん、十三騎(下僕)も庶民(雑種)も全て前座よ。わたしの相手はお姉さま唯一人だけ……お姉さまをこの手で殺めた時……初めてわたしは……本物になれるのよ!」 イリーナが握りしめた右拳を無造作に横に振ると、遙か遠くの壁が粉々に砕け散った。 「……ふう、わたしは力をさらに高めるために、あの場所に籠もるから……後のことは全て任せていいわね、デミウル?」 イリーナは荒れ狂う『気(闘気、殺気)』を収めると、デミウルに睨み殺すかのような鋭い眼差しを向ける。 「ああ、安心して君は強くなることだけに専念するといい。全ての御膳立ては私が整えておこう」 「……任せたわよ」 「ああ、全ては君の御心のままに……」 デミウル・アイン・ハイオールドは、遠ざかっていく幼き女皇の背中を、何の感情も浮かんでいない冷たい瞳で見送った。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |